年々、出産年齢は高齢化し、不妊治療の需要も高まっています。今、求められる「卵巣予備能」を考慮した不妊治療と、検査値から卵巣内に残る卵子数を推定できると注目されているアンチミューラリアンホルモン(anti-Müllerian hormone:AMH)の話題を中心に、不妊治療のエキスパートの先生方に討論いただきました。
■司会
浅田 義正 先生(医療法人 浅田レディースクリニック 理事長)
■出席者
齊藤 英和 先生
(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 副センター長)
臼井 彰 先生
(医療法人社団 ひとみ会 臼井医院 不妊治療センター 院長)
わが国ではこの60年間に結婚年齢と第1子出生年齢の平均が6歳高齢化し、近年、結婚年齢は平均28歳を超え、第1子出生年齢の平均は30歳を超えました。20~24歳で結婚した場合の平均出生児数は2.09と2を超えていますが、35~39歳になると1.16にまで低下し1)、結婚年齢の高齢化とともに平均出生児数は減少しています。
こうした状況を背景に、日本では生殖補助医療を含めさまざまな不妊治療が行われており、最近では生殖補助医療の施行例数が著しく増加し、2012年の治療数では約32万件に達しました(図1)2)。生殖補助医療を受ける女性の年齢も高齢化しており、2012年には40歳以上が39.7%を占めました。当科でも、不妊治療を目的に受診する初診患者さん、体外受精を初めて受ける患者さんの平均年齢は30歳代後半で、一般的に妊孕性が低下しているとされる年代です。
治療開始周期あたりの出生率は20歳代では約20%ですが、32歳くらいから急激に低下し、40歳では6~8%、45歳では1%を下回ります(図2)。その一方で、母親の各年齢群で出生する全児数に占める体外受精児の割合は、 20歳代では1%未満ですが、加齢とともに上昇し、40~44歳では15.58%、45~49歳になると25.11%に達します。高齢患者さんでは生殖補助医療の治療成績は不良とはいえ、出生児に占める体外受精児の割合は高いことになります。
加齢にともない治療開始周期あたりの出生率は著しく低下するため、1人の体外受精児を得るための費用も上昇し、45歳では約4千万円かかる計算になります。高齢になってからの不妊治療は患者さん自身にかかる肉体的・精神的・経済的負担が大きくなります。なるべく早期に不妊診療科を受診してもらい、受診後も早めに患者さんの妊孕性を把握し、適切な治療を選択することが望ましいと考えられます。
AMHは、数値を計測することで卵巣内に残る卵子数の推定が可能なホルモンです。AMH値は初期卵胞や発育卵胞の数を反映するだけでなく、卵胞の発育の早期の段階や成熟過程にも影響を及ぼします。患者さんには、卵巣のなかを見なくても排卵の準備ができた卵子の量から卵巣予備能が評価でき、その指標としてAMHが有用だと説明しています。
AMH値を測定して卵巣予備能を評価することで、どのような治療でどの程度の期間行うかという適切な治療方針を立てることができます。また、AMH値は採卵数と相関が強く、採卵数の管理にも応用できます。AMH値は徐々に低下していくため定量的な評価が可能ですが、FSHは卵巣予備能がなくなったときに急激に上昇するため、FSH基礎値よりも年齢とAMH値を重視すべきだと思います。
私はAMH値を年に1回程度測定し、採卵数と合致しない場合には再検査をするのが望ましいと思います。その結果と年齢を目安に調節卵巣刺激法としてどの方法を選ぶかを考えます(図6)。AMH値が高ければ卵巣過剰刺激症候群(Ovarian hyperstimulation syndrome:OHSS)に特に注意して治療を選択し、加齢とAMH値の低下を加味しながら、アンタゴニスト法、ショート法、簡易刺激法を検討しています。
臼井先生はかなり以前から治療でAMH値を測定されていますが、臨床ではいかがでしょうか。
生理不順になったときにAMH値を測定すれば、PCOSなのか卵巣機能不全なのかを判定できます。治療計画だけでなく、診療のさまざまな場面でAMH値は有用だと考えます。
ただし、これまでのAMH測定の課題として、測定系がやや不安定で数値変動が大きく、溶血などの影響を受けたり補体が干渉する点が挙げられます。また、過去に検査試薬がEIA AMH/MISから第二世代のAMH Gen IIに切り替わった際に、記載単位がpMからng/mLに変わったことなどが経緯としてあり、過去のデータと現在のデータを比較する際には注意が必要です。一方、測定値の精度については先日、新たにAMHを自動化測定でき、低値への感度も高められたアクセスAMH※が使用可能になったことで、一定の質が保たれることを期待したいです。検査センター間のばらつきもなくなれば、卵巣予備能をさらに詳細に検討でき、月経周期との関連性も明らかになると思います。
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アクセスAMHとは、ベックマン・コールター株式会社が販売する化学発光酵素免疫測定法による自動測定装置用試薬(研究用)を示します。
詳しくはベックマン・コールター株式会社までお問い合わせください。